第1回「フランスの労働時間」

諸外国の労働環境から見るニッポン

020年の夏季オリンピックが東京で開催されることに決まりました。

1964年開催の前回から50余年の歳月が流れ、日本も世界も大きく変貌しましたが、再びオリンピックを開催することで、今後より一層「世界の中の日本」という見方、見られ方を意識していくことが必要になっていくかもしれません。

では労務の世界における「世界の中の日本」はどうでしょう。
諸外国と比べて進んでいるのか、はたまた遅れているのか・・・?

もちろんそれぞれの国には歴史的背景、宗教的背景あるいは地域性やお国柄といった面からも、日本とは異なる様々な法律や慣習があるので、直接比較するのはある意味ナンセンスです。

しかし諸外国における労働環境や、抱える労働問題から、企業レベルでも取り入れられそうな優れた方法や、問題解決のヒントとなる事例が見つかります。
そういった視点でこれから様々な国を取り上げていってみたいと思います。

第1回である今回は「フランスの労働時間」を考えます。

先日、フランス政府から経営難のタイヤ工場への投資を依頼されたアメリカの某タイヤ会社が「視察してみたが、1日のうち労働3時間、休憩が1時間、残る3時間がおしゃべり。そんな工場を買収するなど馬鹿げてる。」と返答したことが話題になっていました。

なんともまあ酷い言われようですが、そのフランスがとるのは週35時間労働制です。

導入されたのは2002年で、これは35時間を超えて労働した場合、その分はどこかでまとめて有給休暇をとる決まりになっていて、基本的に1週当たり35時間以上は働けない制度でした。

導入した大きな理由の一つは実は失業者対策です。
それ以前のフランスの法定労働時間は39時間制でしたが、これを短く規制することで、政府は同じ生産性を保つために企業は人を雇うだろうという目論見を立てたわけです。

ところが多くの企業は人を増やさずに、4時間分の効率アップを労働者側に求めたため労働者が反発。失業率はそれなりに改善したものの、企業への補助金で国庫負担が増大するなどの問題が出てきました。これらを解決すべく2008年に一部法改正が行われ、結局時間外労働をすることも可能にしたため、週35時間労働制は実質的に骨抜きになったとも言われています。

しかし聞くところによると労働意識を急に変えるというのは難しいのか、多くの労働者は今も(良くも悪くも)きっちり35時間労働を守っているというのです。

となると経済がガタガタになりそうな気もしますが、先進34ヶ国加盟のOECD(経済協力開発機構)による、2011年の「労働時間あたりのGDP」は57.7ドルで7位と意外にも(失礼!?)ドイツ(55.8ドル:8位)や日本(41.6ドル:19位)より上位にランキングされており、相当に高い生産性を維持しています。
これはいったい何故なのでしょう。

これは、35時間労働制の導入で企業から効率アップを求められたフランスの労働者は、一旦は反発したものの、もとより世界一効率がいいといわれる働き方を更に研ぎ澄ましたのです。

仕事が増えたら「残業や休日出勤をして対応しよう。」という日本とは対照的に「時間内に仕事を終わらせるにはどうすればよいか」を追求して仕事に取り組むことで、「短時間労働経済国家」とも言うべき姿を作り上げています。

労働時間が短いことは決して怠惰なわけではなく、徹底した効率性に裏打ちされたものだとすれば、先のタイヤ工場もあながち極端な例でもなかったのかもしれません。

●次回は高い失業率に悩むイタリアを取り上げます。

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