第4回 「イギリスの労災保険」

諸外国の労働環境から見るニッポン

思いもよらず発生する労災事故は、従業員を使用する立場の皆さんにとって
悩みの多い問題ではないでしょうか。
この労災保険の起源は古く、ヨーロッパの数カ国では1800年代にはすでに法律として導入していた歴史を持ちます。

最も古くから労災保険を制定していた国の一つがイギリスですが、実はイギリスでは労災による死亡事故が非常に少ないことが特徴として挙げられます。

イギリスの安全衛生統計によると、2012年の労働災害による死亡者数は148名。
因みに日本は1093名ですので、日本の約13.5%。
日本と異なり交通災害を含まないとはいえ、これは驚異的に少ないと言えます。
しかもここ数年減少し続けていることに更に驚かされます。

この違いはどこから来るのでしょうか。

実は人口あたりの労災発生件数という点では、イギリスと日本にそれほどの大差があるわけではありません。
注目したいのはイギリス安全衛生庁(HSE)が『危害をもたらす可能性のあることすべてを止めることが安全衛生だと思われている事が多いですが、これは我々の考える実効性のある安全衛生のあり方ではありません。
我々の願いは命を救うことであって、社会活動を止めることではありません。
我々が目指すのは不可能な目標である絶対の安全と、生命と経済に損失を与えるリスクとの適切なバランスを確保することです。』という資料を発表していることです。

要するに「労災をゼロにすることは無理だが、重大事故は起こさせない」というスタンスなのです。

これがリスクアセスメントです。
リスクアセスメントとは作業の危険性を特定して、その重大性、発生の可能性からリスクを見積もり、それにもとづいて対策の優先度を決めて対策、措置を講じる、という手法です。

イギリスでは1974年に施行された「労働安全衛生法」で、それまで法律や規則を詳細に決め、それを遵守することで安全確保を図ろうという(いわば日本のような)スタイルから、各事業者の自己責任に基づき自発的な対応を重視する自主対応型へと方向転換しました。

リスクアセスメントを義務付けて、一方で詳細で大量に存在する規則を簡素化したり廃止したりする方向に舵を切りました。

このことで事業者はその実情に応じて柔軟に安全対策がとれるように許容範囲が大きくなりました。

例えば、高所作業での安全帯や保護帽の使用についてですら、合理的な判断のもとに取捨選択することが可能となっています。
ただしそれを怠って死亡事故を起こした場合「法人殺人罪」という厳しい刑事罰があり、罰金などが課せられる仕組みが併せて存在することもポイントと言えます。

日本人の感覚からすればずいぶん大胆に思えますが、100年以上前から労働災害統計が取られてきたイギリスでは、自然にそういう考え方が生まれたのかもしれません。

日本ではまだ努力義務の段階のリスクアセスメントですが、積極的に導入して職場の安全管理を見直してみるのはいかがでしょうか。

●次回はデンマークの職場満足度を取り上げる予定です。

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