第9回 「イギリスの年金制度」

諸外国の労働環境から見るニッポン

「ゆりかごから墓場まで」というフレーズを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
これは元々第二次世界大戦後にイギリス労働党が掲げたスローガンでした。

当時のイギリスはヨーロッパのみならず多くの国に影響を与えるほど社会保障の充実した国だったものの、皮肉にも手厚い社会保障制度は財政を圧迫し、1970年代には「英国病」と言われるほどの経済低迷の一因となったことは有名な話です。

その後イギリスの年金制度は様々な改革を経て、現在は基礎年金と、それに被用者向けの国家第二年金という付加年金が乗る2階建て方式であり、日本の制度と非常によく似ています。

日本と異なる点の一つはイギリスは皆年金ではないということが挙げられ、低所得の被用者や自営業者は加入義務を免れます。

また2階部分にあたる付加年金にも一定の要件を満たす私的年金に加入すれば、付加年金の加入を免れることができる制度が存在します。近年その条件はやや厳しくなりましたが、政策としては年金の民営化を進めようという意図が見えます。

英国病から脱却するために、このような制度の導入や、年金の給付額を抑えるなどのスリム化、簡素化を行う政策はサッチャー政権、メージャー政権で進められた歴史があり、その結果現在のイギリスの年金財政は比較的健全なものと言えます。それでも高齢化社会への対応もあり、現在の男性65歳、女性60歳の支給開始年齢を最終的に2040年代には68歳に引き上げることが予定されています。

もう一つ特徴のある制度に年金クレジットがあります。これは税金が財源の給付金で、高齢者向け生活保護のようなものです。比較的受給要件が緩いために今後受給資格者が増大し、制度の存続を危ぶむ声も聞かれますが、2003年に導入されたこの制度で高齢者の貧困率が低下した実績があります。

単に簡素化を図るだけでなく、今後の高齢化も見据えて、公的年金の果たすべき役割とそれを補うための制度設計に取り組んでいる点は、さすがにイギリスと言えるでしょう。その証拠に2040年における公的年金債務の大きさは先進国のなかでもかなり低い水準にとどまると予想されています。日本では年金に対する国の財政負担が大きな問題となっていますが、いま改めてイギリスを手本にする時代になったとも言えるのかもしれません。

●次回は「ベトナムの就業規則」を取り上げる予定です。

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