第12回 「シンガポールの外国人労働者問題」

諸外国の労働環境から見るニッポン

シンガポールは来年独立50年を迎える、若くて国土も大きくはない国ですが、国民一人あたりのGDPは日本の1.5倍と非常に裕福な国の一つです。

これほど短期間に急成長した理由は、1980年代に自由主義経済を推進する政策をとり、海外からの投資を集めることに成功したためで、1990年代には金融と貿易の要衝と言われるまでになったのですが、投資だけでなく「人材」も積極的に受け入れてきたというのが要因の一つだったのかもしれません。

実は100年以上前から近隣国から移民を受け入れて経済成長に対応してきた歴史をもつシンガポールは、そういう意味ではもともと移民や他国からの流入に抵抗がない国民性があるとも言えるでしょう。その証拠に現在の労働力人口は実に 3 分の 1 が外国人労働者だというから驚きです。

ならば、さぞや外国人労働者は厚遇されているのかといえばその逆で、最低賃金は適用されず、事業縮小時の解雇もまず外国人から。犯罪を犯した者や妊娠が判明した女性は即国外退去…とドライそのものです。それでも大金が稼げるためシンガポールで働きたいという外国人は引きを切らないそうです。

こうして飛躍的に成長したシンガポールも2008年の世界金融危機の影響は避けられずに成長は鈍化しますが、外国人労働者を制限するような政策が取られなかったため、おりからの不動産価格の高騰や交通機関の混雑の問題と相まって、国民からは過剰な外国人受入れに対する反発の声が大きくなっていきます。

このような背景の中で行われた2011年の国政選挙で与党が得票率を落としたことをきっかけに、外国人労働者への依存を減らす方向に方針転換が行われてきています。

それは産業ごとの外国人雇用率を制限したり、外国人雇用税を引き上げたり、就労ビザの取得を厳格化したり、とかなりドラスティックなもので、更に8月からは月収約100万円以下の管理職や専門職の外国人の採用前に、同条件で2週間以上シンガポール人向けの求人を出すことを義務付ける「求人求職データバンク」という面白い制度も導入される予定です。

一方日本では少子高齢化にともなう将来の労働者不足を見据えて、単純労働者の受け入れを容認していこうという動きも見られます。これからの成長を考えた場合にはそれもひとつの方法だとしても、行き過ぎると将来シンガポールのように日本国民が反発する時代がやってくるかもしれません。

さて12回にわたって様々な国の労働環境を日本と比較してみてきましたが、羨ましいことや、これは日本のほうが優れていると思えることなど、お国柄、文化の面でも世界の広さをあらためて認識させられた感があります。取り入れられる「良いもの」は世界からどんどん取り入れて、より良い環境で働けるようにしたいものです。(了)

コメント